昨年の年初にブログで一年をながめてみた雑感を書きましたが、今年も”軽く”思いつく範囲で重要なテーマについてまとめてみました。
第一章 世界の政治と経済
第二章 テクノロジーのインパクト
第三章 人材と教育
第四章 まとめ
<第一章 世界の政治と経済>
昨年は全世界的に見れば比較的大きな事件が少なかった一年と言えるかもしれません。ヨーロッパで悲しいテロの事件は度々ありましたが戦争というところまではまだ遠いように思えます。
IS(イスラム国)もアメリカを中心とした撲滅作戦が功を奏して勢力は格段に弱くなりました。一方で弱体化して統制が利かなくなったテロ集団がより理性を逸脱した行動に出る可能性も増えてきました。ひとつひとつは小さな事件かもしれませんが、関係もない人々が被害者になるという点では無視できないところです。
今年一年についてはこの状態を継続することが短期的には予想されますが、グローバリゼーションでつながっている世界経済はどこかでほころびが出ると瞬時に全体に波及するリスクがあります。以前にあった、ヨーロッパの小国であるギリシャがデフォルトを起こした時に全世界を震撼させたのが良い例です。局所的な地域紛争や民族問題がやがて大きな事件に波及していく、これが今年一年でありそうな悪いシナリオです。具体的にみると北朝鮮、シリアを含む中東、東シナ海の領土問題、カナダやスペイン、イギリスの民族独立問題、そして最後に忘れてはいけないのがアメリカのトランプ政権のかじ取りなどです。
マクロ経済については昨年全体として大きな問題はなかったという印象です。2017年のGDPの予測数字はどれも悪いものではなく、その基調は今年も前半は続くことが予想されます。一方で多くの先進国が懸念するデフレについては金融・財政政策のインフレ目標を達成することができずにいます。労働賃金の上昇が抑えられ中間層が高給を取る機会が限られる状況では、プラスとなる需要が生まれにくい状態が続くでしょう。
産業や地域ごとに見てみると、好調・不調の格差は依然残っており、途上国の低所得の一次産品を輸出する国々、特にエネルギー輸出国に依存する中東やサハラのアフリカの国々では社会や政情不安が起きています。
以下ではもう少し地域ごとに見ていこうと思います。
◆ヨーロッパ
EUのリーダー格であるドイツやフランス、そしてそれらに準ずる経済規模の大きいイタリアやスペインなどで、EUに対する肯定的な意見と否定的な意見に分かれ今後についてのコンセンサスが得にくくなっています。それは安定した政権の確立が難しくなることを意味し、国内の地域の独立問題なども重なって、国内での世論の分裂を招き、その結果選挙ではこれまでの保守中心から極右や極左の政党も勢力を伸ばし始めてきます。彼らが国民の中間層を取り囲むことができれば一気にEU離脱が進み、一つの国の離脱が他の国にも影響を与えるドミノ崩しのような状態になるとEUは一気に崩れるかもしれません。
どこまで行くかは不明ですが、いずれの場合もこれまで20年余りを要して作り上げたEUのシステムが、このままでは安定運営できないことが露呈し多くの部分に変革を求められることは確かでしょう。
◆アメリカ
アメリカはトランプ政権が経済最優先の政策をトップダウンで強行し、これは株価を見れば分かるように経済にとってはよいニュースです。特に減税は経済界にとって大変好意的に受け止められます。ただしアメリカ中心の政策をしてもグローバリゼーションの流れがよくならないと結局はアメリカもよくならないので、全世界への影響を考えないとアメリカの将来は見えないです。
アウトソーシングによる労働力の海外移転、節税目的の本社移転、所得と教育の格差拡大などの問題は重荷になったままで、それを解決するための減税や景気刺激策はハンドリングを誤ると中長期的に貿易と財政赤字という形で政府に”負”の負担として残ってしまいます。
アメリカが世界で求められる機能の一つに警察官として世界の紛争を解決してほしいというニーズがありますが、これは最近のトランプ政権の方針にもみられる通り、かなり消極的になっていると言わざるを得ません。これを熟知している中国やロシアはこれをチャンスととらえ自国のやりたいように軍事行動を展開しようとします。
尻込みするアメリカとロシア・中国との関係は、中東などの勢力が不安定な地域における地理学的リスクとして顕在化しはじめ、これが世界を不安定にする要因の一つになってきます。
◆アジア
アジアの経済は他のエリアとの比較では相対的に安定します。もともと世界の約2/3にあたる人口を持つこのエリアは、戦争などの動乱がなければ個人消費の伸びと海外からの技術と資金の提供がある間は安定的に成長します。
特に規模が大きくトップダウンの政策がとれる中国の影響力が世界的にも大きくなってきます。もはや技術的にも先進国とならぶ水準を持つ製造業や、世界のトップレベルのITサービスなどにおいて、自国の巨大なマーケットをバックにどんどん新しい産業やサービスが発展しています。懸念点は不動産バブルからくる不良債権が規模や内容が不透明なまま残っていること、格差が大きくなってきて市民の中の不満が大きくなってきていることなどです。もし仮に今中国のバブルが崩壊して株・不動産などの大幅下落が起こった場合、世界でこれを救えるだけの余力がある国はありません。2008年にアメリカを発端として世界を震撼させたリーマンショックの時は、中国の経済が絶好調でそこのパワーに救われたことがあったのですが、今回もしもこの中国からクラッシュが起こったとするとそれを救える国は単独では存在しません。また大国のアメリカやEUのリーダー達も自国の事情が最優先で、仮にそこに救いの手を伸ばす場合も国民の理解が必要でこれには相当の時間とエネルギーが必要になってくるでしょう。
世界で2番目の約13億の人口を持つインドもマクロ経済で見るとまずまずですが、中身を見ると国内はバラバラなところが目立ちます。伸びている産業や業界はアメリカやイギリスとの関係もあり非常に好調です。一方で古い習慣やシステムも多く残っており、都市や地域によって異なる政策は全体として格差をより目立つものにしていると言わざるを得ません。
ミクロ的にみると制度面や大きすぎる多様性からくるカオス状態のため不安視する声も大きいのですが、全体としては極めて順調であり現在の国民生活の水準を考慮すれば中長期でその成長余地は世界で最も大きな国の一つであることは確実です。
◆アフリカ・中東
アフリカは現在も資源価格に経済全体が大きく影響を受けています。2000年以降しばらく原油を中心に資源価格が高騰していた間は産油国が多い国を中心に経済は全体として成長しました。その一方でインフラ整備など将来への準備が遅れた結果として資源価格が落ちてきた現在は元のアフリカに逆戻りしているところがあります。トップの汚職や民族や部族間の争いもいまだに絶えない中、少しずつ上向きになってはいるものの課題はまだまだ多いと思います。
北アフリカから中東は混乱が続きそうです。特に原油価格の下落は産油国の多いこの地域へ大きな影響があり、これまで原油で外貨を稼いでいた比較的豊かな国々に大きな変化が現れます、現体制の崩壊、政治や経済システムの改革、場合によっては地域の紛争ということも勃発し、これに宗教が絡んでくるので事態はより複雑化します。
個別にみるならトルコとサウジアラビアは注意が必要です。トルコは政教分離が進んで西洋化した時代に完全に区切りをつけて、もとのイスラム教中心のオスマン帝国に戻ろうとしています。サウジアラビアは原油価格の下落によりこれまで豊かだった財政状況が一気に悪化しました。このままでいくと近い将来経済の破綻により現在の王制中心のシステムが大きく変わるかもしれません。
◆日本
日本は世界的に見ればかなり平和な国であると思います。国民の実感はあまりないかもしれませんがマクロ経済は過去最高レベルくらいの好調さです。地政学的リスクが比較的少ないのも安定の要因ですが、朝鮮半島のリスクは国民が考えるより大きいと思います。これは日本国内のメディアが情報統制されている結果ですが、海外の複数のニュースリソースを元に実際に北朝鮮がどうなっていてどれくらい危険があるかなど自分で判断するしかありません。
直近は比較的安定している国ですが、中長期でみると根源の問題はあまり解決していないと言えるかもしれません。少子高齢化と労働力不足の問題はやがて経済成長の足かせとなることは確実です。また政府の財政赤字の拡大は直近の景気対策とはトレードオフの関係で、近未来の経済のために将来の借金を大きくしている事実は我々はもう少し真剣に受け取る必要があるかもしれません。
医療や年金など数量的にシニアに厚すぎる予算配分はやがて若い世代に不幸をもたらします。古きを大切にする良い文化を守りつつも、新しいシステムを構築するために何かを犠牲にして変わらなければならないことを全国民がコミットすべき時期はもう来ていると思います。
直近に大きな問題が少ないのであれば、この良い時期にこそ大きな変革にもっとも適したタイミングであると思います。
<第二章 テクノロジーのインパクト>
ITやAIがさかんにニュースやメディアで取り上げられることが多くなってきました。ほとんど毎週のようにビットコイン、フィンテック、ドローン、AIなどIT関連の記事があちらこちらで書かれています。また日常生活でもIT化は加速しており多くのサービスがスマートフォンでできるようになってきました。物を買うEC(イーコマース)はもちろん、LINEなどのSNSはこれなくしてはコミュニケーションが成り立たない世界となっています。
今後数年でデジタル化、IT化がすすむ分野の一つにデジタルマネーや電子決済の分野があると思います。日本でもSUICAなど交通系電子マネーの普及率は高いですが、小売りでそれが常に使われているかといえばまだそこまで普及していないのではないでしょうか。コンビニでもコンビニの独自のカードがありますが、いかんせん交通系カードとコンビニカード、さらにはどこかのマイルプログラムなど乱立しすぎていて、どれか一枚あれば全部用事が足りるという状態にはなっていません。
昨年香港と中国の深センに行きましたが、それぞれで種類は違いますが電子マネーが普及しており、持っていると大変便利でそれひとつで全てのサービスの支払いが完結します。(深センでは外国人はWeCatPayを使えないためその分大変不便で困りましたが)これがすすむと無人店舗も増えてきて、実際に買い物でセルフレジを経験しましたが待ち行列もなく大変スムーズで便利でした。シンガポールでも最新の空港ターミナルはすべてデジタルで処理する無人のオペレーションになりました。
これらの動きは支払いの方法、決済の手段のみならず、いろいろなサービスのオペレーション自体も変える可能性を持っています。これに無人の自動運転やドローンなどが組み合わさってくると、それほど遠くない未来で同じものを買う場合でもやり方が今までとは全く異なる方法になっているかもしれません。
デバイスという点でテクロノジーを見るなら、現在は多くの機能がスマートフォンに集中しています。それはこれが身近で便利であるからで、いつのまにかMP3プレーヤーなど携帯音楽プレーヤーもポケットゲーム機も手帳も時計もカメラもここに収まっています。この動きは今後も加速し、短い間にクレジットカード、交通系電子マネー、現金、ID(身分証明書)、家の鍵、ATMカード、本や雑誌などもどんどん普通にスマートフォンで扱うようになってきそうです。
スマートフォンに集中する一方で別のデバイスもたくさん開発されていて、AppleWatchに代表されるスマートウォッチもつける人が多くなってきました。これはBluetoothによりスマートフォンと連動してデータの保存などを行うことでより機能を拡充させます。自分もスマートウォッチをずっと使っていますが、いつのまにかその日の歩数を見たり、心拍数や運動量、睡眠の量と質などを定期的にモニターしており、最近は自分の体調をこの数字を見て判断するようになりました。
この分野はヘルスケアで大きな可能性があり、特別なセンサーを付けることにより、血圧、血糖値、血液中の酸素量、体温、発汗の具合などがモニターできると病気の事前予測などが高い精度でできるようになります。
また最近ではBrainTechの分野で人間の脳の活動をモニターしてフィードバックしながらパフォーマンスのコントロールをするデバイスもでてきています。これは精神疾患などの医療目的のことだけでなく、アスリートの集中力アップによるパフォーマンスの向上など実用的な分野で開発が進んでいくと思います。
これらはまだデバイスが普及していないため多くのデータを集められませんが、もし普及して多くの人のデータが集まってくると病気の予知や予防に大変役立つことが想像されます。
<第三章 人材と教育>
ITやAI、さらにはハードウエアをともなうRPA(Robotics Process Automation)の普及により世の中の生活や仕事の内容が変わってきます。そうなると働く人に求められる求人像も変化し始め、そのスキルシフトに乗り遅れると大変なことになるでしょう。
現在でもシニア層ではITについていくのが大変でなかなか苦労されている方々をよく見かけます。しかしこれは今後もどんどん変化する環境の中対応していく以外に方法はありません。その変化が激しいければ激しいほど、新しい業界や世代には新しいチャンスがあり、また古い産業やスキルには脅威となります。
仮に今必要なスキルがあったとしても今後もそれがずっと使える保証はありません。そういう意味ではずっと学び続けるスキルとモチベーションが大切になってきて、それに対して時間と労力を投資する人がサバイブできる世界になっていくことが予想されます。なんとも忙しい世界になることは考えるだけで疲れてしまいそうですが、e-laerningなどのサービスやツールが増えることにより無理のない形で何かを学べる社会にはシフトしていくことが想像されます。
人材面ではグローバリゼーションの流れがあり、相対的に安く良質な労働力を国境を越えて求め合う状況は変わりません。島国で難解な言語を持つ日本は、この点では最も多様性がすすんでいない国ですが、不足する労働力を海外から確保するために規制面での緩和をすすめるという制度上の問題と、職場での上手な受け入れをして活用するという両面において今年は大きなチャレンジとなると思います。ダイバーシティという言葉が先行し過ぎていて実態がなかなかついてこないというのが実感ですが、そろそろ他の文化にも慣れて異質なものも広い心で受け入れるという時期に来ていると思います。
企業側の採用意欲については昨年同様依然に強いものがあり、有効求人倍率の高さを見るまでもなく需給はタイトのままで企業側は思うように質も量も採用できていない状況が続いています。中途の転職市場においてはいわゆるオールドエコノミーからニューエコノミーに転職する若手の人材が目立ちます。産業全体がITのプラットフォームに移行する中、新規事業の創造へのチャレンジを求めている流れが強くなっています。オールドエコノミー側は充実した福利厚生制度を武器に人材の確保をPRし、ニューエコノミーは新しい挑戦への機会を強調する、それらの人材獲得の競争がみられます。
求められる求人像について特に多くの変化は見られませんが、どの産業でも事業家タイプの求人が強くなっています。いわゆるゼロイチの事業創造家を求めるのは産業構造全体のことを考えて当然のことですが、それに経験が伴う人をより即戦力として欲するケースが増えています。過去に起業したけどいったんやめた人など、経験者は最優先の求人として出てきており、彼らの賃金は年々アップしています。
労働需給のタイトな状況により、今年はこれまでと異なった状況が3つほど現れると思います。第一番目には経験者や高いスキルを持つ人材の給与が上がることです。すでに外資系などでは若い世代でも年収が1000万円を超すのに数年しかかからないという状況が多々見られるようになってきましたが、今年はこれが加速すると思います。その受け入れ先の多くは外資系もしくは利益率の高いベンチャー系で、これが候補者側には好意的に映ってみえるでしょう。
二番目の特徴は都市部の労働力が足りなくなる分、地方もしくは海外への求人とアウトソーシングが増えると思います。アウトソーシング先はITではベトナムなどに多く仕事が流れるようになってきており2国の橋渡しをするリエゾンマネージャーの立場で働ける人材は重宝されていきます。
三番目は転職がこれまで以上に盛んになると思います。多くの魅力的なポジションがネットで簡単に探せるようになり、また一つの会社で働き続けるという終身雇用の神話が完全にくずれて人々が躊躇なく転職活動を行うようになってくると思います。エージェントの活動も盛んになりますが、全体的に有望な候補者をとりあうという点ではマーケットの拡大は求人ニーズほどには大きくならないと想像されます。
<第四章 まとめ>
ここまでいろいろな観点から今年以降起こりそうなことを”雑感”として書いてみました。最後になりますがあったら嫌だな、あったら影響が大きいなということと、あったらいいなということをまとめて締めくくろうと思います。
◆あってほしくないこと、あったら困ること
中国のバブルの崩壊
中国の東シナ海、南シナ海での紛争
北朝鮮の核開発とそれによる紛争(ミサイル発射)
中東の混乱(サウジアラビア、もしくは北アフリカあたりでのクーデターやテロ)
規模の大きいテロ
地震や津波などの大きな自然災害
EU内での分裂と混乱
トランプ政権が泥沼化による政治の機能不全
◆あってほしいこと
乳幼児を持つ家庭のサポートの充実
基礎教育の無償化
創造性、個性、ITなどの新しい教育制度の充実
働き方の多様性の普及
外国人の流出入の活性化、また海外人材の受け入れ拡大
起業家文化の浸透
シニアの生きがいの充実と生活上の選択肢の拡大
地球温暖化に対する世界各国でのコンセンサス
貧困の撲滅
様々な不平等の解消
・・・
(無限になるので、このあたりで)
。。。(2018/1/13)