Goodfind講師ブログ

次代を創るビジネスリーダーのためのキャリアサイトGoodfind

「論理(ロジック)」について学びなおす~その3「Aか?Bか?」の選択~

仕事は「好き」か「得意」かどちらで選ぶべき?

今回は上記のような問いに対する論理的考察法を解説します。具体的には「Aか?Bか?」の形の論理的な判断における、典型的な誤りと正しい使い方を分かりやすく説明しようと思います。

 

キャリアについて相談を受けるときによく出てくる質問で

「仕事を決めるときに、自分が好きなことで選ぶのか得意なことで選ぶのかどちらがよいでしょうか?」

仕事を決めるときに何を基準とするかは慎重に考えないといけないことは間違いありません。しかし論理的に考えるのであれば、この問い自体に問題があることがわかります。

「仕事は好きか、得意かどちらで選ぶべきか」の構文を一般化すると以下のような文章になります。

「AとBがある時に、どちらが正しいのか?」

 

この問い自体に含まれてる問題点は以下の2つです。

(1)AとBの二つの選択肢がある時になぜ一つだけが正しく、他方が正しくないと判断するのか?

(バグ1)答えは常に一つである!


この例でいうと「自分の好きなこと」を選んだ時になぜ「自分の得意なこと」を捨てなければならないのか?またはその逆で「自分の得意なこと」を選んだ時になぜ「自分の好きなこと」を諦めなければならないのか?


このように2つ選択がある時、一つが正しい(数学では「成り立つ」という)ときに他方が正しくない(「成り立たない」)ことを「排中律」と呼んでいます。例えば「大人/子供」、「日本人/外国人」などはこの排中律が成り立ちます。数学的な言い方をするなら、ある集合とその補集合を考えるとき(集合の)元は必ずどちらか一方にだけに属します。

我々が日常でも排中律が成り立っていると考える背景は、命題の「真偽」には排中律が成り立つからです。命題では「真」か「偽」のどちらか一つだけが決まるため、日常生活でも同じように全てのことに成り立つと判断しがちで、それで納得したり次の行動に移ったりします。

でもどちらかに決めないと、次のことを考えたり行動に移すことがしにくくなりますよね。特に行動に移す場合は、「AでもありBでもある」と言われても「結局どっちやるの?」とかややこしくなります。だからシンプルに解は一つにしたい事情があると思います。

命題の排中律が成り立つときは答え(結論)が一つですが、同じ数学でも一般に問題の答え(「解」とも言います)は複数あってもよいのです。例えば「自然数で1より大きくて5より小さいものは?」といえば「2,3,4」の3つが解となりますし、この自然数の条件を実数に広げると無限に解は存在します。2次方程式の解も実数内では重複する場合も含め2つあることは高校までの数学で学んだとおりですね。

 

答えが一つである、というのは受験の影響が大きいと思います。マークシート式の入試では解答は一つです。だからマークシート解答用紙を機械で採点できるのですが、それに慣れていると人々はいつも問いに対する解答が一つだと誤解しがちになります。

 

(2)そもそも分類する基準が違う2つの物差しを同じ物差しで考えようとしている

 
(バグ2)AとBで判断軸が異なる!

 

「好き/好きじゃない」
「得意/得意じゃない」

この2軸は全く別のものです。ですのでもしも進路をこの2軸で分類するなら2*2=4通りが考えられ、以下のようにパターン分けされます。

・「好き and 得意」
・「好き and 得意じゃない」
・「好きじゃない and 得意」
・「好きじゃない and 得意じゃない」

実際は「好きじゃない and 得意じゃない」からは選ばないと思いますので、3つの中から現実的な選択をするのではないですかね。

それにしても3つの可能性を考えるというのは人間の頭にとっては結構負担かもしれません。場合分けしてそれぞれのパターンを考えると思考としてはシンプルですが考える量が3倍になるのでより複雑です。この事情からなんとなく解を一つにしたいと本能的に考えていると思います。

 

(ここから先は数学の論理とは別の話になります。)

最後に数学や論理学の範疇からははずれて本題の趣旨とは異なりますが、この最初の問題が含む別の2つの”推論バグ”について解説します。(こちらのほうが現実的な問題かもしれません。。)


(3)「好きである」または「得意である」ことは決まっている!?

 
(バグ3)AとBがはっきり決まっている!

ここで出てくる「好き」や「得意」というものが本当に分かっている保証はありません。就職活動などでは「私は何をしたいのか?」ということの答えを持っていない人も普通にいます。
(というより多数いると思います)
この出発点である条件があやふやだと推論自体が無意味になるのはこれまでの論理の解説でも述べたとおりです。

(*前回と前々回の論理についての解説はこちら)
「論理(ロジック)」について学びなおす~その1「命題」について~ - Goodfind講師ブログ

「論理(ロジック)」について学びなおす~その2「帰納」と「演繹」~ - Goodfind講師ブログ

 


(4)問いに対する解答は常に存在し、かつ誰かはそれを知っている

 

(バグ4)答えは常に存在し誰かが知っている!

 

一般に問題には常に解があるわけではありません。例えば数学において

自然数で5より大きく、かつ、2より小さいものは何か?」

の解は存在しません。つまり一般には問いに対しては必ずしも解は存在しません。それを常にあるものとして求めすぎるのは問題と解が一体になっている受験勉強の悪い影響だと思います。そしてその受験勉強の影響の延長で言うと、学校や塾に行けば誰かが解答をしっていて教えてくれるという習慣があるためきっと知っている人がいる(たぶん先生)と信じています。その状況からの類推で、あたかも一般の問題についても塾のように解答があり先生のような人が知っていると勘違いしているところがあるのではないでしょうか。

 

元大リーガーの上原浩治投手はご自身のyoutubeチャンネルで「野球に正解はない!」と言っています。練習の仕方とかフォームとか実は様々な解がありそれは個人がそれぞれであっているものであればよい、という意味だと思います。

大げさかもしれませんが「人生」も正解があるわけでなく、それぞれの個人がよいと思うものでよいのではないでしょうか?それを受験と同じように、こうなったら正解とか、この職業は勝ち組などと判断するのは論理的にも実際の意味としてもちょっと違うと思います。

 

本日の「Aか?Bか?」の形の命題の判断での我々がやりがちなバグを最後にまとめます。

(バグ1)答えは常に一つである!
(バグ2)AとBで判断軸が異なる!
(バグ3)AとBがはっきり決まっている!
(バグ4)答えは常に存在し誰かが知っている!

ありがちなバグなので意識すると修正されるので心掛けてください。